「そうか残念だな…今日は美恵子ちゃんと周れると思ったんだが…」
「急で申し訳ありません…」
「しょうがない…会長が相手じゃ…また今度な…」
「はい…よろしくお願いいたします」
美恵子は静々と答え受話器を下ろした。
27才という年齢の割りに落ち着いた大人の色香が漂う美恵子は幹部連中に受けが良く
社内でも美人揃いで有名な秘書課の中でも特に人気が高かった。
10時になり美恵子は藤田と共に会長宅へと向かった。
車で20分ほどの場所に会長宅はあった。
「黒沢」と書かれた表札がある大きな門の前で藤田と美恵子は車から降り立った。
ゼネコン大手の黒沢建設を一代で築きあげた黒沢武造は息子の武雄を社長に据えると
一線から身を引き都内の一等地に300坪の敷地をもつこの館で隠居生活を送っていた。
80歳を超えた武造はここ何年かは本社を訪れる事も無く
美恵子も実物と会う機会を持ったのはこれが初めての経験であった。
やがて門が重い音を立ててゆっくりと左右に別れ開いていった
手入れの行き届いた日本庭園が美恵子の目の前に広がっていた。
さすがの藤田も緊張した面持ちでいるのに美恵子はさらに緊張していった。
広々とした玄関から奥へと通させた藤田と美恵子は会長の待つ部屋と案内されていった。
会長の武造は大きな座卓を前にして座っていた。
初めて見る武造は皺だらけの顔で老人斑が所々にあり高齢を感じさせた。
しゃがれた声で緊張した藤田に話かけていた。
藤田の影に隠れていた美恵子に気づくと武造は目尻を下げて声を掛けた。
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