「ねえねえ…まだカメラまわってるの?」
朋美は乗せられたワゴンの中で口を開いた。
「いや…今はまわしてないです」
撮影スタッフの一人が応えた。
「なーんだ…それじゃ…アイマスク外すわよ…」
「い…嫌…ちょっとそれは…困ります」
「良いじゃない…どーせ他の人たちもカメラの前でしか着けてないんでしょ…」
「そんな事無いです…皆さん約束守ってますよ…」
「もう…うざったいの…」
朋美はスタッフの言葉に反抗してマスクを取った。
ワゴンの中に白けた空気が流れ出した。
「あとは現地についてから着ければいいんでしょ…」
「え…ええ…」
困ったスタッフが言葉を濁す中、朋美は少し不機嫌そうに窓からの景色を眺めていた。
成田空港に着く直前にスタッフに促され朋美はマスクを再び着けた。
「じゃー…行ってきまーす」
カメラを意識した朋美は先ほどまでの表情を消し去って笑顔を浮かべていた。
「本当に今回はカメラマンだけで…良いんですか?」
これまでの大陸横断企画には画面に出てはこないが数人のスタッフが同行していた。
「ああ…赤石さんがそう言ったんだから良いんじゃないか」
「でも…一応アイドルですよ…もしもの事があったら…」
「良いんだよ…年末の特番に間に合いそうと分かるまでオンエアーしないらしいから」
「へー…」
質問していた若いADはこの業界の裏側をそれ以上深く追求する事はしなかった。
ワゴン内で見せた彼女のわがままな態度に腹を立てていた。
「じゃ…宮崎ちゃん…よろしくね…」
「はい…がんばって行ってきます…」
今回、1人だけ朋美に同行する事になった新人カメラマンの宮崎は
少し不安な面持ちで手を振って出国手続ゲートへと向かった。
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